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会員紹介

白石 博一
SHIRAISHI, Hirokazu

正会員
左官 / 茨城県古河市
私にとって左官とは、「素材・環境・人の呼吸を繋ぐ技」です。とりわけ土や漆喰においては、主となる素材、スサ、骨材、のり、水──そのすべてに独自の“癖”があります。それぞれの個性を見極め、仕込みから仕上げまでの一貫性と時間の流れを調和させる感覚と理は、経験の積み重ねの中でこそ磨かれていくものだと考えています。

竹木舞をはじめとする土壁工法や国の文化財修復に携わる中で、左官の技術が単なる装飾ではなく、構造・性能・美意識を備えた建築の根幹であることを、実践を通じて証明してきたという自負があります。数値に置き換えられない精度、設計図に表しきれない仕上がりの妙──そうした“余白”にこそ左官の本質が宿り、それを現代建築にどう活かすかを日々模索しています。
伝統とは守るべきものであると同時に、根本を大切にし、柔軟に更新されていくべきものだと私は考えます。土と共に生き、時代と向き合う。その覚悟をもって、今日も鏝を握ります。

1972年茨城県古河市生まれ。祖父の代から左官業を営む。高校卒業後、久住章親方に師事し、株式会社花咲か団に参加。ホテル川久のマーブル磨きの列柱の製作、工事等に携わる。地元に戻ってきてからは壁左匠しらいし株式会社を立ち上げ、関東を中心に国重要文化財などの伝統工法の仕事に携わる。

壁左匠しらいし株式会社
茨城県古河市本町4-14-29
壁左匠しらいし

左官施工実績
群馬県館林市 国登録文化財「正田醤油本社屋」改修工事
茨城県牛久市 国重要文化財「シャトーカミヤ旧醸造施設事務室」保存修理工事
東京都港区 国重要文化財「武家屋敷門」
千葉県我孫子市 我孫子市指定文化財「旧井上家住宅二番土蔵」調査解体工事
東京都豊島区 東京都文化財「学習院大学東別館(旧皇族寮)」改修工事
福島県桑折町 国重要文化財「旧伊達郡役所」災害復旧保存工事
茨城県土浦市 国指定史跡「土浦城址 櫓門・東櫓・西櫓・霞門」保存修理工事
埼玉県八潮市 国重要文化財「和井田家住宅」長屋門母屋および長屋門保存修理工事
東日本大震災で被災した牛久シャトー(1903年竣工・国重要文化財・茨城県牛久市)の保存修理(災害復旧)工事(2015年)で、事務棟のペディメントの漆喰レリーフの復原などを手掛けた。レリーフは、ワイン醸造所にちなみ、葡萄と蜂をあしらったもの。被災前からの長年のペンキ塗り重ねによる補修を剥がしたうえで、もとの漆喰の色彩が検討された。葡萄や蜂の傷んだ部分を繕いながら、オリジナルの形を忠実に再現することに務めた。
牛久シャトー事務棟、外部テラスの漆喰蛇腹を修復した。傷み、剥落していた既存の蛇腹を剥がし、下塗りの砂漆喰、上塗りの漆喰をそれぞれ引き型で引いて復原。引き型は既存の蛇腹形状に合わせて木を削り、木口に鉄板を張って自作したもの。端正に仕上げるには高い技術が必要となる。ほかにも、室内外や時計塔の外壁などの漆喰の塗り替えを手掛けた。
2022年、前田建設工業が東京・白金にあったチューダー様式の洋館、旧渡辺甚吉邸(1934年竣工)を茨城県取手市へ移築保存。内外の左官工事を手掛けた。写真は主寝室の壁・天井の石膏レリーフの復原(周囲の漆喰壁は仕上げ前のグレー色)。移築前は経年の汚れを覆い隠した塗装が重なり、レリーフのディテールがぼやけた状態だった。手間を掛けてそれを剥がし、オリジナルの美しいラインを正確に出す復原を目指した。(2023年、国登録有形文化財)
旧渡辺甚吉邸の応接室天井の石膏レリーフ。型抜きしたパーツを仕上げているところ。解体され、復原のために保管されていたオリジナルのパーツ1枚をもとに粘土で成形、シリコンで雌型をとり、石膏を流し込んで型抜きし、10枚を復原。天井に張り付けた。現場まで搬送するときなどの衝撃に配慮し、マニラ麻のスサを入れて補強してある。
地元古河市の新築住宅で、施主から依頼され、屋根の妻壁に漆喰彫刻(鏝絵)を施した。健康、長寿を望む施主のために、鶴亀、松や宝珠などをあしらったデザインを提案。軒裏の頂部に「龍」の字の火伏せを取り付けた。漆喰彫刻は得意とするところ。
旧井上家住宅二番土蔵(千葉県我孫子市指定文化財)。1851年に建造された土蔵の修復工事に携わった。(設計/もば建築文化研究所、施工/風基建設)撮影/白石ちえこ
旧井上家住宅二番土蔵の下地「土蔵木舞」。真竹を縦横に組み、藁縄を交差させて竹を結び付けた「かがり縄」の様子。ここに荒土を付けていく。写真/我孫子市教育委員会
旧井上家住宅二番土蔵で、かがり縄を施した土蔵木舞に荒土を付けていく「荒打ち」の工程。柱に藁縄を巻き、荒土を付けているところ。写真/我孫子市教育委員会
土蔵木舞のかがり縄などを荒土で伏せ込んだ状態。このあと、縦縄、横繩を全面に張り巡らせ、それぞれの工程ごとに土で塗り籠め、表面を整える大直しなどを重ねて分厚い土壁をつくる。土中塗り、漆喰で仕上げた。二番土蔵では壁厚225㎜。土は、現地の近くの土を全体量の7割使い、この土蔵を崩した土を3割ほど再利用。文化財では自然を含む地域性が、材料や施工法に反映し、建物、左官を特徴づけていると考えている。写真/我孫子市教育委員会
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