藤田 秀紀 FUJITA, Hidenori
正会員・副議長
左官/石川県金沢市

左官の面白さは、かたちも色合いも自分でイメージしたものを無限大につくれること。思った通りではないな、でもこれもおもしろいな、ということもあり、いつも研究を重ねています。
黒漆喰磨きは新潟の宮沢喜一郎さんに習い、地元で幾度となく練習して、少しずつ確立していきました。口では語れないようなタイミングや勘というものがあります。難しいものです。自分で努力するしかありません。気候も変動していますし、湿度の調整など、今も全国のベテラン左官とともに探究しています。 いつか左官仲間と集まって「川久」のような現場をやるのが夢ですね。あらゆる技術を持ち寄って。
お客様が喜んでいただける壁を塗ることがいちばんの基本です。僕らがいいなと思ってもお施主さんが違うと感じるなら、それは“よい壁”ではない。 その方の思いにかなう壁をつくること、それが僕たちの仕事の最もたいせつなことだと思っています。
石川県金沢市生まれ。藤田左官2代目。小学生時代から父の現場を手伝っていたが、高校時代までは継ぐ気はなく、金属部品工場に就職した。しかし大手建設会社で現場監督を務めていた兄や、中学卒業後、左官工事会社、イスルギに入った弟と話すうちに建築に興味を持ち、就職先は1年で辞めてセメント中心だった家業を6年間携わった後、小松七郎さん、宮沢喜一郎さん、中村康さんら多くの名人に師事。金沢職人大学校でも3年間、伝統技法や修復技術を磨いた。 登録有形文化財や町家の修復、設計士と組んだ現代的な商業空間や住宅など幅広く手がける。金沢ならではの朱壁、紺青壁や、石膏装飾、版築土塀なども得意とし、ことに黒漆喰磨きには定評がある。施工範囲は全国に及ぶ中、常に「その土地のもの」「その土地の伝統」を意識している。技術の探究を続けつつ、県内外での後進の指導も長年にわたって続けており、職人仲間の信頼も厚い。金沢職人大学校講師。
有限会社藤田左官
石川県金沢市金石海禅寺10-9
Tel. 076-254-1037 Fax. 076-254-1038
https://www.yu-fujitasakan.com/

登録有形文化財である明治期の旧陸軍の建築2棟を移築し、2020年に開館した石川県金沢市の国立工芸館。こちらは旧陸軍第九師団司令部庁舎。柱や壁は木摺り下地に砂漆喰を3層塗り、漆喰で仕上げている。

金沢市の国立工芸館。蛇腹やアカンサスは石膏で復元した。

金沢市の国立工芸館。シャンデリアの天井飾りも石膏で復元した。

農家や商家などを移築、公開して加賀百万石の文化を伝える「金沢湯涌江戸村」。そのなかの、加賀藩の武士住宅の特徴がよく保存されているという旧平尾家住宅の土塀を施工した。

「金沢湯涌江戸村」旧平尾家住宅土塀。構造は版築で、幅2700mm高さ210mmの足場板で型枠をつくり、土を少しずつ入れては叩き締めている。これが半乾きのうちに荒壁塗り、乾燥してからムラ直し塗りで仕上げ。

「金沢湯涌江戸村」旧平尾家住宅土塀。版築の型枠を外したところ。

金沢の骨董セレクトショップ「石黒商店」の内外の左官を担当。店舗兼主屋は国登録有形文化財。ファサードは、明治37年の創建当初の弁柄格子を復原。壁は黒漆喰磨きで、最後には手でこすって光らせた。

「石黒商店」。壁は白土の洗い出し仕上げ。お店のマークをガラスで埋め込んでいる。

金沢市大工町にある日本料理店「金澤 つきや」のかまどと焼き台。下地は耐火煉瓦で、大津磨き仕上げ。

大正期の町家を生かしたフレンチレストラン「金沢ワイナリー」。加賀、能登のテロワールを表現する壁を施工した。正面は地層風の洗い出し。左の壁は地元の土を使っている。

2023年に新たにオープンした石川県加賀市のセレクトショップ「PHAETON」。内外とも壁はすべて漆喰で仕上げている。内部は白い漆喰と赤漆喰で、一部は押さえ、一部は磨き仕上げ。


「PHAETON」2階。床はモルタルでつくった5種類のタイル張り。
