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《寄稿》現代建築における土壁 Vol.2|子どもたちが採取した砂で、新校舎の壁を塗る

[ 文・久保久志(東畑建築事務所名古屋オフィス設計室主管) ]

角鹿小中学校は、福井県における公立学校初の施設一体型小中一貫校です。
子どもたちが9年間という長い期間を過ごす学習・生活の場となるため、成長段階に合わせて内装を変化させることで、自身の成長を感じながら、飽きのこない空間づくりができないかと考えました。その空間づくりの一つがトイレです。

トイレの内装デザインは、椙山女学園大学?本研究室学部4年の渡辺結香さんの卒業制作の一環として協働し、「地域愛を育む敦賀らしい風景」をモチーフとして、学年ごとにデザインの異なるトイレを提案しました。
小学校低学年は、敦賀とうろう流しと大花火大会、中学年は敦賀港、高学年は敦賀赤レンガ倉庫、中学校1、2年生は気比(けひ)の松原、3年生は氣比神宮をそれぞれモチーフとしたバリエーション豊かなインテリアになっています。

土壁の出番は気比の松原です。
敦賀の地を古くから見守ってきた松をイメージした深い緑のタイルをベースに、砂浜をイメージした土壁を掛け合わせることで、小学生から中学生へと次のステージにあがる大きな変化にふさわしく、上級生らしい落ち着いた印象を与えるデザインを考えました。

土壁部分のデザイン及び施工は、蒼築舎の松木さんに協力いただきました。
統合する3小学校の構内の土と気比の松原の砂を使い、砂浜と水面との境界が大きくうねる波打ち際の表情をモチーフに、3校の土と気比の松原の砂と左官の技術で、ダイナミックな壁面が生まれました。

3小学校の土探しや気比の松原での砂探しには子どもたちに参加してもらい、土のレクチャーも合わせて行いました。
施工はプロジェクトを支えたたくさんの大人の手で行い、子どもたちへのサプライズプレゼントとしました。

今春4月にいよいよ新校舎での生活が始まります。
自分たちが拾い集めた土でどういった表情の壁ができあがったか、子どもたちはとても楽しみにしてくれています。

身近な自然素材である土が自身の環境づくりに生かされているなんて思いもよらなかった。
土には調質効果や消臭効果だってあるんだ。土ってすごい。
きらきらした表情で小さな発見を重ねる姿がとても印象的なプロジェクトになりました。
教育現場で土と左官に触れることで、身の回りの小さな気づきを楽しめる感受性豊かな人間形成につながるのではないか。
これからも教育の場での土と左官の普及に尽力していきたい。

[ 敦賀市立角鹿小中学校 ]
所在地/福井県敦賀市
開校/2021年4月
建物規模/RC造一部S造 3階建て
敷地面積/18,659.04m²
建築面積/2,946.70m²
延床面積/7,720.24m²
設計/ 東畑・エイコー設計共同体 代表 東畑建築事務所(担当:久保久志)
左官/松木憲司(蒼築舎)

久保久志 Hisashi Kubo
1980年奈良県生まれ。2005年三重大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。2005年、東畑建築事務所入社。現在、東畑建築事務所名古屋オフィス設計室主管。第49回中部建築賞 一般部門入賞(新城市立作手小学校・つくで交流館)、第13回こども環境学会賞 デザイン奨励賞(新城市立作手小学校・つくで交流館)、第14回キッズデザイン賞 経済産業大臣賞(魚津市立星の杜小学校)など受賞多数。主に公立の小中学校の設計に携わっており、設計ワークショップ等を通じて、利用者から活動を引き出し、その活動を支えるハードを提案し、使い方を設計段階からデザインする「一緒に考え・つくり・つかう」をテーマにした利用者協働型の学校づくりを実践している。

小学校の構内で土を採集。
景勝地、気比の松原で砂をふるい、壁の材料に。
工事関係者で施工ワークショップを開催。
土と砂による波打ち際のうねる表情を丁寧につくる。
気比の松原の松の葉でつくった道具。最後の仕上げに使う。
仕上がった壁。
角鹿小中学校の南側外観。

関連レポート:
「現代建築における土壁」寄稿レポート1
「溶ける」土壁をコンクリートと組み合わせる [ 文・浅井裕雄(建築家・裕建築計画) ]

「現代建築における土壁」寄稿レポート3
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