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《イベントレポート》オンライントーク第2回「左官を中心に語る 復活した宮城県気仙沼の文化財」を開催しました

7月18日(土)、オンライントーク第二弾「左官を中心に語る 復活した宮城県気仙沼の文化財」を開催しました。まちづくりコンサルタントの和田裕子さん、左官の小林隆男さん、左官の及川貴史さんがスピーカーとなり、日本左官会議の会員20人が参加しました。

今回は、7月15日、9年4カ月ぶりに営業を再開した「男山本店店舗」を中心に話がすすみました。
まず、和田さんがこれまでの経緯を説明。男山本店店舗があるのは、宮城県気仙沼の風待ち地区です。古くからの港町で歴史的建造物が残るエリアでしたが、2011年3月の東日本大震災の津波により、大きな被害を受けてしまいました。

多くの建物が公費解体されていくなか、国内外からの援助や地元の人々の努力により、国登録有形文化財だった建物などが修復、再建されることになったのです。
「気仙沼にはもともと、歴史的建造物を調査して魅力を伝えようという会(※)があったことで、被災した歴史的建造物を修復・再建する機運と体制に恵まれていと思います。被災地には、文化財に匹敵する建物がたくさんありましたが、残念ながら取り壊したり放置するしかないものも多く、そういう意味では、今回の例は被災前から会が存在していたことが幸運だったといえると思います」と、和田さん。
(※)被災前からあった「風待ち研究会」は、被災後に「(一社)気仙沼風待ち復興検討会」に再編成された。

男山本店店舗は昭和5年築。木造3階建てでしたが、津波の引き波で流されてきた漁船が衝突し1階2階をなぎ倒し、なんと3階とパラペット(屋上の外周に設けられた壁)部分だけが残された状態でした。まずは元の敷地内に曳家。残された部分は解体し、使える部分は生かし、新たな補強も加えるなど、それはそれはさまざまな経緯と困難があったそうです。

左官の及川さんは、外壁の洗い出し、パラペットの装飾部分の復元、3階の内部の漆喰などを担当。洗い出しとは、セメントモルタルに骨材を入れた材料を塗りつけた後、タイミングを見計らって水で洗い、骨材の頭を見せる手法で、仕上がりは御影石のように見えます。今回、及川さんは、セメントと石灰、種石(たねいし)に白竜(はくりゅう)と黒霞(くろがすみ)を使い、お父さんの時代から使っている手押しポンプで洗い出したそうです。装飾部分は、残っていた部分を参考に型をつくって復元しました。

新しい建物は、1階が店舗、2階は会議室、3階はギャラリーで、再建の経過を紹介する展示が行われ、今後も地域に開かれるとのこと。工事の様子を紹介する動画が好評だそうです。

古い建物の修復に多く関わってきた小林さんは、「ロボットではなく感情や考えを持っている人間が、一生懸命つくってきた。自分は塗ってる人間やけど、(そんな長い歴史のなかの)素材のひとつやと思っている」といいます。
それは、及川さんの「古い建物を解体するときは、ただ壁を剥がすのではなく、土地によってサクい土なんだなとか、材料の配合が違うんだなとか見るのが楽しい」という言葉と通じているようです。

長い間親しまれていた建物が復活するということは、そこで使われていた左官技術も引き継がれることに繋がります。近年は地震や水害が多く、そのたびに古い建物がどんどん失われていますが、歴史を伝える建物の意味をあらためて考えさせられるオンライントークとなりました。
(事務局・多田君枝)

型をつかって、欄干の手すり子を復元。
左が、復元されたパラペットの欄干。
卵鏃(らんぞく)飾り(egg-and-darts)の復元。卵と鏃(やじり)のパターンで、西洋建築によく見られる文様。
パラペットの外壁の施工中。
卵鏃飾りのアップ。
鏝の焼き印「銅屋」は、及川左官店の屋号。

[ 写真提供 ]
(一社)気仙沼風待ち復興検討会
株式会社ユー・エス・シー
株式会社アルセッド
及川貴史

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